ホテル ドゥ ラルパージュの館内には、至るところに絵画が飾られています。フランスのご家庭に行くと、どの家の壁にも絵がかかっています。それらは昔からそこに掛けられたままになっているかのように馴染んでいます。
このホテルで皆さまのご覧になられている絵は、いずれもそういう雰囲気をお楽しみいただくべく、当ホテルのオーナーが一枚一枚選んだものです。
そこに一枚の絵があるだけでその場の雰囲気や空間が変わる、そのような「絵のある空間」を感じていただければ、と思います。
今回は、当ホテルのバー「ル・レーヴ」にある絵画をご紹介します。
このバーは、落ち着いた壁や調度品の色調と柔らかく控えめな照明、天井までの壁一面の書棚を芸術や文化に関する洋書で埋め尽くした、上品でリラクシーなスペースです。
反射を抑えたアンティーク仕上げのミラーなどともに19~20世紀の絵画が壁を飾ります。
バー「ル・レーヴ」に足を踏み入れると、すぐ左手に、19世紀フランスの有名な画家アドルフ・モンティセリ、もしくはその弟子のフェルナン・ヴィオラによる絵画が飾られています。モンティセリはフランス革命前の優雅な時代を哀愁に満ちた雰囲気で描いた画家で、その特徴的なタッチはゴッホに影響を与えたと言われています。この作品は、ヴィオラがモンティセリ名のサインをしている可能性もあります。
バーの入り口から、ホテルの庭を眺める天井までのアーチ窓へ向かうと、右手には、同じくフェルナン・ヴィオラによる4枚の連作絵画が飾られています。4枚のうち2枚は列柱を描いており、これはレセプションの項でも説明したイギリス式庭園のひとつである、パリのモンソー公園の列柱をモチーフにしていると思われます。こちらの絵画には過ぎ去ったフランス革命前の優雅な時代への感情が込められています。革命後のフランスの外交官タレーランが「(革命前の)1780年前後を知らない者には人生の甘美さの何たるかなど分かるべくもない。」と形容した時代へのノスタルジーです。実際、着飾った登場人物の表情は哀愁に満ちています。その一方で現代的な荒々しいタッチは、この絵が単なる懐古趣味ではなく次の時代の作品であることも示しています。
アーチ窓のすぐ右にある絵画はホメロスの叙事詩にあるトロイアへの出発を描いた作品で、19世紀のイギリスのものです。古代ギリシャをモチーフとした作品はコンスタントに好まれていたことが分かると同時に、表現に19世紀という時代が感じられます。
バーカウンター横に飾られている作品です。13世紀末から14世紀初頭にかけてのイスラム時代のグラナダに造られたアルハンブラ宮殿の庭園を描いた19世紀の作品で、過ぎ去った時代の庭園を描いているため、メランコリックな雰囲気を醸し出しています。イスラム的なモチーフは19世紀に流行し、絵画に留まらず建築にも見られます。ある種の夢の対象としてイスラム的な世界を捉えています。
バーの窓からはホテルの庭を眺めることができます。庭の奥には、ホテルハイジ時代からある藤の古木があります。この藤の古木の幹や枝には小梨の木が複雑に絡み、春になると白や紫の鮮やかな花を咲かせます。
バー「ル・レーヴ」では、飾られた絵画を愛でる以外にも、窓の外の自然を楽しんだり、建築やヨーロッパをテーマにした古書を含む文化に触れたり、希少なフレンチリキュールを味わったり、チェスなどのボードゲームに興じたり、様々な楽しみ方でお過ごしいただけます。