ホテル ドゥ ラルパージュの館内には、オーナーが丁寧に選んだ調度品や絵画、「上質な日常」を感じられる居心地の良い空間にするための建築面でのこだわりが至る所にちりばめられています。
今回は、そのなかでも特に時間をかけて実現した、当館の建築のハイライトともいえる「螺旋階段とステンドグラス」をご紹介いたします。
正面玄関をはいって右へ進むと、1階から3階までをつなぐ、螺旋階段、そのすぐ横にはステンドグラスが美しくはめこまれています。
曲線美が魅力の螺旋階段は、フランスでは古い建物から現代の建物までよく見かけられます。フランスの建築では、階段がハイライトの一つである証です。フランス語で螺旋階段は、escalier en colimaçon(エスカリエ・アン・コリマソン)と呼びます。これはノルマン語でカタツムリ(殻付きのナメクジ)を意味するcalimachon(カリマション)が語源であるそうです。
現代の螺旋階段は、コンクリートで造られることも多いのですが、当館の螺旋階段は、あえて鉄骨で造り薄く軽やかにしました。「芯」がないだけでなく、周囲の壁から離れて見えることもあって、浮遊した感じさえもします。実はその構造は、目立たないところで壁と接合することで支えられています。手すりの握りの部分も鉄でできており、フランスの家の階段の手すりと同じように滑らかなカーブにするべく、職人の方に何回も造り直し、叩き直しをお願いし、やっと完成いたしました。
館内では、ほとんど壁紙を使用しておらず、ほぼ全ての壁は直接ペンキで塗装されています。
イギリスの塗料メーカーFARROW&BALLを採用し、螺旋階段周りの空間にも様々な色のペンキを使用しています。階段の側面と奥の壁には、イギリス南部の石灰岩の色であるClunchを使っていて、その他の壁には、Mizzleという同じ地方の空の色を表現したカラーを合わせています。
手すりには、Pigeonというカラーを採用し、一羽の鳩が石灰岩の塔の周りをクルクル回りながら、空の中を上へ上へと高く飛んでいく様子を表現しています。
滑らかなカーブを登っていくと、一番上の天井にはイタリア製のモダンなシャンデリアが吊るされています。青色の飾りがアクセントとなり、クラシックな踊り場の雰囲気に華を添えています。
ステンドグラスは、東京にある工房「マリヨステンドグラス」のオリジナル作品で、強度が異なるガラスを組み合わせながら綺麗なグラデーションを表現した繊細ながらも遊び心のあるデザインが特徴です。
このステンドグラスは、東面の壁に設置されているため、天気の良い日には朝の8時頃になるとステンドグラスを通した朝の光が石の床に色鮮やかに映し出されます。時間とともに階段や壁の方まで移ろう光の色を眺められるのは、ご宿泊される方ならではの特権といえるでしょう。
外から差し込む自然光に照らされて刻一刻と変わる色彩の表情、シャンデリアや間接照明の人工の光との繊細な調和、そしてガラス越しに広がる内から外への景色すべてが、踊り場の空間に奥行きをもたらします。
螺旋階段の下には、かわいらしくも力強い印象の鹿のオブジェが2頭並んでいます。これは、18世紀に発掘されたイタリア・ナポリのポンペイ遺跡に埋まっていた物のコピーです。蓼科には「鹿山」という地名もあるほど数多くの鹿が生息しています。
当館に訪れた際には、自然に囲まれた蓼科らしさを感じていただけるオブジェにもぜひご注目ください。
蓼科にお越しの際は当館へお立ち寄りいただき、館内の細かなこだわりまで余すことなくお楽しみいただければ幸いです。